論文解説
パキフィツムの葉挿しに向くLED光質
多肉植物の葉挿しでは、親株と同じように強い光を当てるべきか、発根までは弱めにするべきか迷いやすいです。今回は、パキフィツムの葉挿しを複数のLED光質で比較した論文を読み、室内の育成ライト運用へどこまで読み替えられるかを整理します。
取り上げる論文は、Lee and Namによる「Vegetative Propagation of Six Pachyphytum Species as Influenced by Different LED Light Qualities」です。Horticultural Science and Technologyに2023年に掲載された研究で、対象はPachyphytum compactum、P. oviferumなど6種・品種です。
栽培への持ち帰り
室内栽培では、赤青LEDだけにこだわらず、まず白色LEDを基本に考えてよいです。今回の論文でも、白色LEDは発根・発芽や芽・根の生長で十分に有効な選択肢でした。
ただし、この論文のPPFDは40 µmol/m²/sで、成株のアガベや強光を好むエケベリアに当てるような高照度ではありません。あくまでも葉挿し初期の発根と小さな芽を安定させる段階の話として読む必要があります。
この論文で調べたこと
この研究は、パキフィツムの葉挿しに対して、LEDの光質が生存、発根、発芽、根や芽の生長にどう影響するかを調べています。
比較された光は、赤色LED、青色LED、紫色LED、3000K白色LED、4100K白色LED、6500K白色LEDです。すべての処理で PPFD は40 µmol/m²/sにそろえられ、点灯時間は16時間明期、8時間暗期でした。実験期間は60日で、発根・発芽の確認は15日ごと、芽や根の生長量などは60日後に評価されています。
つまり、この論文は「光の強さを変えた比較」ではなく、「同じくらいの光量でスペクトルを変えた比較」として読むのが大切です。
実験条件を育成ライト運用の目線で読みやすくすると、次のようになります。
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 対象植物 | P. compactum、P. glutinicaule、P. machucae、P. oviferum、P. viride、P. cv. Oviride |
| 植物材料 | 親株の下段の葉を使った葉挿し |
| 栽培容器 | 48.5 × 33 × 8 cmの長方形ポット |
| 用土 | 施肥済み園芸用培土 |
| 栽培場所 | 大学の植物生理学研究室内の栽培施設 |
| 温湿度 | 平均24 ± 1℃、相対湿度46.3 ± 14.7% |
| 光処理 | 赤、青、紫、3000K白色、4100K白色、6500K白色LED |
| 光量 | 全処理でPPFD 40 µmol/m²/sに調整 |
| 点灯時間 | 16時間明期、8時間暗期 |
| ライト | 1.2m T5 LEDランプを各処理区に2本、入力20W |
| 反復数 | 各処理3反復、1反復10枚、各処理30枚の葉挿し |
| 水管理 | 2週間ごとに200mLを散布 |
| 混光対策 | 黒色ポリエチレン遮光フィルムで処理区を分離 |
| 評価項目 | 生存率、発根率、発芽率、葉数、根数、芽数、芽や根の長さ・幅、生重量、乾物重、含水率 |
この条件を見ると、室内の窓辺や育成ライト下での葉挿しとはかなり違います。温湿度、光量、点灯時間、混光の有無、水分管理が管理された環境なので、結果は「パキフィツム葉挿しにおける光質の比較」として読み、実際の栽培環境では環境差を前提に使う必要があります。
主な結果
論文では、青色LEDと6500K白色LEDで生存率、発根、発芽の成功が高まる傾向が示されています。一方で、芽や根の大きさ、 fresh weight、dry weight では、白色LEDがよい反応を示したとまとめられています。
白色LED同士でも、3000K、4100K、6500Kの結果は完全には同じではありません。6500K白色LEDは、全体平均で発芽成功率が青色LEDとほぼ同等に高く、発根でも多くの種で高い成功率を示しました。一方、芽の数や芽の長さ、幅、根の長さ、重量では、3000Kや4100Kが上に出る種・項目もあります。
たとえば、P. compactumでは3000K白色LEDで芽数と生重量が高く、4100K白色LEDで葉数や芽幅が高く出ています。P. machucaeでは4100K白色LEDで芽数と芽長が高く、P. glutinicauleでは3000K白色LEDで芽幅と根長、6500K白色LEDで乾物重が高く出ています。つまり、6500Kは発根・発芽の成功率で目立つ一方、育った芽や根のサイズまで含めると、3000Kや4100Kにも見るべき結果があります。
ただし、どの光が一番よいかは種によって変わります。同じパキフィツム属でも、P. compactum、P. glutinicaule、P. oviferumなどで反応がそろうわけではありません。
論文の結論も、単一のおすすめLEDを決めるというより、葉挿しの成長段階や植物種によって光質の使い分けが有効かもしれない、という方向です。
室内栽培に読み替えるなら
室内で葉挿しに使うなら、いきなり強い光を当てるより、発根・発芽を確認しながら弱めから始める方が扱いやすいです。この論文のPPFDは40 µmol/m²/sで、成株のアガベや強光を好むエケベリアに当てるような高照度ではありません。
葉挿し初期は、強光で締める段階というより、乾燥させすぎず、発根と小さな芽を安定させる段階です。青みを含む白色LEDや昼白色から昼光色寄りのLEDは、室内栽培でも試しやすい選択肢になります。
白色LEDは青、緑、赤を含み、植物に必要な波長をある程度カバーしながら、人間の目でも葉色や徒長、乾き具合を観察しやすい利点があります。スペクトル図が確認できるフルスペクトルLEDも有力ですが、商品名の「フルスペクトル」は定義がゆるいため、言葉だけで判断しない方が安全です。
まだ断定できないこと
この論文だけで、すべての多肉植物の葉挿しに6500K白色LEDが最適とは言えません。対象はパキフィツム6種・品種であり、エケベリア、セダム、アガベ、サボテンでは反応が変わる可能性があります。この記事での持ち帰りも、「6500Kが常に正解」ではなく、「室内栽培の葉挿しでは白色LEDを基本にしてよい」という範囲です。
また、実験ではPPFDが40 µmol/m²/sにそろえられています。室内の栽培環境では、ライトとの距離、反射、棚の段、自然光の有無で葉に届く光量が大きく変わります。色温度はスペクトルの傾向を読む手がかりになりますが、同じ3000Kや6500Kでも実際の分光分布は製品ごとに違います。色温度だけを見て同じ結果を期待するのは危険です。
葉挿しの成功率は、光だけでなく、親株の状態、葉の外し方、温度、湿度、用土、水分管理にも左右されます。論文は光質の影響を切り出して見るための材料として使い、栽培レシピとして丸ごとコピーしない方が安全です。
このサイトでの結論
室内栽培では、白色LEDを基本に光量、距離、点灯時間を調整する方が再現しやすいです。6500K寄りは発根・発芽の成功率で期待しやすい一方、3000Kや4100Kも生長量で劣るとは限りません。
葉挿しと成株育成は分けて考えます。葉挿しでよい条件が、そのまま成株を締める光になるとは限りません。
参照論文
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文 | Vegetative Propagation of Six Pachyphytum Species as Influenced by Different LED Light Qualities |
| 著者 | Jae Hwan Lee, Sang Yong Nam |
| 掲載誌 | Horticultural Science and Technology, 2023, 41(3), 237-249 |
| DOI | https://doi.org/10.7235/HORT.20230022 |
| URL | https://www.hst-j.org/articles/xml/QjKw/ |